樹木の生理生態機能を分光技術で解明する

   森林の樹木の生理活性や養分状態、それらの環境応答を広域かつ連続で観測する手法の一つにリモートセンシング技術があります。これは、特殊なセンサーを使い、対象物から反射する電磁波を観測することで、その性質を非接触・非破壊で予測するものです。

   私の研究室では、おもに樹木の葉や根の反射光を波長ごとに分光して計測することで、その生理機能や生態的な特徴を予測したり、温暖化や窒素負荷といった環境条件の変化に対する応答を野外で調査しています。

   リモートセンシングというと人工衛星を想像される人が多いと思いますが、私の研究対象は森林内に建てた観測タワーやクレーンでアクセス可能な「林冠」です。個葉や個体スケールで観察することから始め、群落スケールのモデル研究や人工衛星データの検証まで展開しています。

研究風景:【上段】林冠クレーンから眺めた北海道・苫小牧の落葉広葉樹林と樹冠上からみた長期土壌温暖化プロット(3か所の消雪エリアは5m×5m).【下段】マレーシア熱帯雨林の観測タワーと個葉の分光観測.

 


1. 樹木葉の形質

非破壊で計測した可視~短波長赤外波長の分光反射率や吸収率をもとに、葉のフェノロジーや葉内の栄養成分や有機物組成の推定を行います。

 冷温帯~熱帯の東アジアの森林でフィールド調査やサンプリングを行い、室内分析とモデル化を行っています。共同研究者(京大、東北大、森林総研、国環研、FRIM等)の協力のもと、20164月現在、18サイト・420種で解析中です。

 

参考文献(解説):中路ら(2014)日本生態学会誌, 64, 215-221.

2. 群落光合成の予測

森林内のタワーに設置した分光放射計で計測した連続多波長(ハイパースペクトル)データと、気象要因およびフラックス観測の関係を解析します。

 これまで、キサントフィルの光応答やクロロフィル/カロテノイドの色素バランスを反映する分光指標(PRI)と光合成の光利用効率の関係について研究してきました(Nakaji et al., 2006, 2007, 2008, 2014)。苫小牧研究林をはじめ、これからもマレーシアや関係サイトとの連携を予定しています。

 

参考文献(解説):中路(2008低温科学67巻 光合成研究法, 497-506.

 

3. 樹木根系の解明

地中の樹木根系は森林の生産の2~6割の炭素を利用しているとも概算され、隠れた炭素シンクと言われていますが、その動態や気候変動などへの応答はまだ十分解明されていません。

  地中の画像を時系列に近接撮影して、根の生長を観察する研究手法にライゾトロン法があります。この手法に分光撮影画像を取り入れることで根の生死判別や土壌有機物の組成変化の時空間変動の解明が期待されます(Nakaji et al., 2008)。現在、土壌温暖化や窒素負荷といった環境要因の変化が森林内の細根のフェノロジーや機能に与える影響の検出をめざし、苫小牧研究林で操作実験を実施しています。

 

参考文献(解説):中路ら(2012)植物科学の最前線 BSJ-Review, Vol. 3, 22-29.